東京高等裁判所 平成6年(ネ)5333号 判決 1996年3月14日
神奈川県川崎市中原区木月住吉町一八八七番地
控訴人
株式会社藤田兼三工業
右代表者代表取締役
藤田秀雄
右訴訟代理人弁護士
寺島健造
鹿児島県鹿児島市加冶屋町八番七号
被控訴人
板塗工業株式会社
右代表者代表取締役
弓場光雄
右訴訟代理人弁護士
橘高郁文
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 控訴の趣旨
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は、原判決別紙イ号そのA商品目録記載の「縁付き凹型ジョイント」及び同イ号そのB商品目録記載の「金属薄板」を製造、販売及び販売のために展示してはならない。
3 被控訴人は、右「縁付き凹型ジョイント」及び「金属薄板」の各商品の完成品及び仕掛品並びに製造用専用機械及び製造用金型を廃棄せよ。
4 被控訴人は、控訴人に対し、金四〇〇万円及びこれに対する平成四年九月一一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。
6 4項につき仮執行宣言
二 控訴の趣旨に対する答弁
主文と同旨の判決
第二 請求の原因
一 特許権者
控訴人は、原判決別紙特許権目録記載の特許権(以下「本件特許権」といい、その発明を「本件特許工法」という。)の特許権者である。
二 本件特許工法の技術的範囲
1 特許請求の範囲の記載
本件特許工法の願書に添付した明細書(本件明細書)に記載された特許請求の範囲は、次のとおりである。
「木造住宅の外周に配置した柱1の上端の胴差2の下方に桁3を横架し、該各柱1の前方に適当間隔をおいて柱1’を任意数本立設して上端に桁3’を横架し、桁3’の上面を桁3の上面より低位置となし、桁3、3’の上面に左右適当間隔をおいて垂木4を架設し、桁3’の正面に一対の腕木5、5’を数組突設し、該各腕木5、5’の先端に束6を垂直に固締し、各束6の上端に桟木7を固締し、束6並びに桟木7と同一高厚の側板8を桁3、3’の両端並びに桟木7の両端に連設し、垂木4並びに束6の間隔溝内に雨樋9を嵌着し、各垂木4の上面にコンクリートパネル10を両側端に間隙をおいて張設し、該各コンクリートパネル10の間隙に<省略>型ジョイント11を嵌着してコンクリートパネル10上面に発泡板やグラスウール板の様な断熱板12を張設し、前端並びに両側端を下方へ曲折すると共に後端を上方へ曲折させた金属薄板13を断熱板12上面に張設して両端曲折を<省略>型ジョイント11内へ嵌入して目地コーキング14すると共に前端曲折を雨樋9に係嵌させ、更に後端曲折を胴差2に固締し、前部の桟木7並びに両側の側板8の上端に化粧金属枠板15を嵌着すると共に手摺16を立設し、雨樋9に縦樋17を連通させたことを特徴として成る、ベランダ屋根の構築方法。」
2 特許請求の範囲に記載された構成要件の分説
本件特許工法の特許請求の範囲に記載された構成要件を分説すると、次のとおりである。
Ⅰ 「ベランダ屋根」の突設載置用ないし突設支持用下部枠体構造の骨組み形成・組み立て工程(「ベランダ屋根の上面を縁台とする」ための先行的措置工程)
<1> 木造住宅の外周に配置した柱1の上端の胴差2の下方に桁3を横架し、
<2> 該各柱1の前方に適当間隔をおいて柱1’を任意数本立設して、
<3> 上端に桁3’を横架し、
<4> 桁3’の上面を桁3の上面より低位置となし、
<5> 桁3、3’ の上面に左右適当間隔をおいて垂木4を架設し、
<6> 桁3’の正面に一対の腕木5、5’を数組突設し、
<7> 該各腕木5、5’の先端に束6を垂直に固締し、
<8> 各束6の上端に桟木7を固締し、
<9> 束6並びに桟木7と同一高厚の側板8を桁3、3’の両端並びに桟木7の両端に連設し、
Ⅱ 「雨樋」取付工程
<10> 垂木4並びに束6の間隔溝内に雨樋9を嵌着し、
Ⅲ 「ベランダ屋根の構築」・ベランダ屋根葺き工程(「ベランダ屋根の上面を縁台」として構成する工程)
<11> 各垂木4の上面にコンクリートパネル10を両側端に間隙をおいて張設し、
<12> 該各コンクリートパネル10の間隙に<省略>型ジョイント11を嵌着して、
<13> コンクリートパネル10上面に発泡板やグラスウール板の様な断熱板12を張設し、
<14> 前端並びに両側端を下方へ曲折すると共に後端を上方へ曲折させた金属薄板13を断熱板12上面に張設して、
<15> 両端曲折を<省略>型ジョイント11内へ嵌入して、
<16> 目地コーキング14する、
Ⅳ 「ベランダ屋根の上面を縁台として利用する」において付加的仕上工程
<17> と共に前端曲折を雨樋9に係嵌させ、
<18> 更に後端曲折を胴差2に固締し、
<19> 前部の桟木7並びに両側の側板8の上端に化粧金属枠板15を嵌着する、
<20> と共に手摺16を立設し、
<21> 雨樋9に縦樋17を連通させた
ことを特徴として成る、ベランダ屋根の構築方法。
3 本件特許工法の目的・特徴
従来の工法によるものは、屋根面やあるいは地面から柱を建てて縁台を設置しているものの、そのような「ベランダ屋根」においては、アルミサッシ枠杆を利用し、縁台にコンクリートをスラブ打ちするものがあり、このため、施工費が高価で、コンクリートにひび割れが発生して雨漏りしやすく、ベランダの下方空間を有効利用できない等の欠点があった(甲第一号証1欄末行ないし2欄八行)。右のほか、当業者に自明なことではあるが、コンクリートをスラブ打ちするので重量もかかるし、コンクリート養生のための時間がかかるなどの工期に相当の時間を要する等の欠点もある。
本件特許工法は、右の諸欠点を解消・克服する目的で開発・発明されたものであり、二階建住宅の窓下胴差より「ベランダ屋根」を突設するものとして、本件特許工法である「ベランダ屋根の構築」方法によることで「ベランダ屋根」の上面を「縁台」として構築利用し、もって右欠点のある「コンクリートのスラブ打ちするもの」とは違ったものにするとともに、下方空間を居間として利用し得るようにもしたものである。
右目的実現のために「ベランダ屋根を二階建住宅の窓下胴差より突設するもの」との表現がされているが、「ベランダ屋根」を「突設」して構築するにおいては、突設構築に耐えられるほどの支持が図られるものとするものであることは、当業者にとって自明のことである。
右目的実現のための具体的構築方法については、その記載表現された工程・手順中のいくつかの事項については、当業者において自明の技術事項としての説明をしているにすぎない部分があり、それらの部分を右と同一の目的を実現するためとして当業者にとって他の自明の技術と置き換えるなりその一部省略ないし前後させてもよい部分・技術事項のものがある(例えば、「胴差」でなくとも右目的を実現させるものであればそれに匹敵するものであればよいともいえるし、また、「突設」できるのであれば右目的を実現させる上で必ずしも「前方に柱を立設」しなくてもよいといえる。)。また、「下方空間」については、居間として利用し得るとの「得る」との表現でしかないものであるから、下方空間は居間として利用しなくてもよいともいえるにすぎない。つまり、右目的からすると、前記<1>ないし<21>の工程中には、その目的と無関係といえるものがある。
4 本件特許工法の作用効果
本件特許工法によるベランダ屋根は、その上面において「コンクリートパネル」と「断熱板」と「金属薄板」とを順次三層に重ねて張設して構成するものであり、隣接して配置される「金属薄板」の左右両側端の接合部において目地コーキングを施すと共に「金属薄板」の下方には「縁付き凹型ジョイント」を配置させて「金属薄板」の左右両側端の下方に折り曲げられた部分を右「縁付き凹型ジョイント」内へ嵌入させているために雨漏りが発生することなく、「コンクリートパネル」であることから「コンクリートスラブ打ち」よりも強体であると共に各部材を接合させているためひび割れ等を発生することなく、長期の使用に耐え得るものである。そして、各部材が軽量であるため施工も容易で、アルミサッシのベランダに比べても安価である。なお、「ベランダ屋根」の下方空間は、居住空間とし得るものである(甲第一号証3欄一三行ないし4欄九行)。右のほか、当業者にとって自明なことではあるが、従来工法とは違い、時間的には工期が短くて済むし、施工費用も安価に済むものである。
右作用効果からして、前記<1>ないし<21>の工程中には、右作用効果とは無関係なものがある。
5 必須の構成要件
(一) 本件特許工法の構成要件とされるものとしては、特許請求の範囲の記載文言を分析・分類確定させて分説すべきであるところ、そのためには、本件特許工法の実質的内容・実体を認識・把握・分析してその技術的範囲を理解した上ですべきであり、その意味において本件特許工法の目的と特徴や作用効果とするところから導き出すものであり、その必須の構成要件は前記<1>ないし<21>の工程中のどの部分・いかなる構成要件部分にあるのかを検討して求めるべきである。
本件特許工法は、前記3記載のごとく従来工法には欠点・欠陥があることに対して、それらを克服・解消する目的の下に、同4記載のごとき作用効果をもつものとして、開発・発明されたものである。
(二) ところで、前記Ⅰ<1>ないし<9>の工程部分は、本件特許工法の前記目的と特徴や作用効果とは関連性のない又は薄いといえるものであるし、「ベランダ屋根」を載置する下部枠体ないし支持構造の骨組みを形成・組み立てる工程であり、いわば「ベランダ屋根の構築」をするための先行的工程であり、しかもそれらは当業者にとって自明の事項である。してみると、これは、例えば、「ベランダ屋根」を二階建住宅の窓下胴差より突設支持するだけの形で構築するにしても、また、「ベランダ屋根」を張り出して構築するにおいてその前方に支持柱を立設して突設載置する形で構築するにしても、そのいずれかとするかといったことは当業者において任意に選択して自由にできるものである。しかも、そのいずれかによる「ベランダ屋根」を構築するにおいては、夫々の場合、すなわち、「ベランダ屋根」を突設載置する下部枠体にしても、あるいは、「ベランダ屋根」を突設支持させる構造のものにしても、夫々の組み立て工程は、当業者が自明の技術をもって任意に選択して自由にできるものである。したがって、そのいずれとするか、また、その工程の順序を若干前後させたり省略させたりするかは、当業者の選択自在・自由領域にあるものともいえる。
さらに、前記Ⅱ<10>の工程部分は、本件特許工法の前記目的と特徴や作用からすれば、当業者の取捨選択自在・自由領域にあるものである。
Ⅳ<17>ないし<21>の工程部分についても、同じことがいえる。
(三) よって、本件特許工法の実質的に重要な・必須の構成要件といえるものは、次のAないしEであると解すべきである。
A<11> 各垂木4の上面にコンクリートパネル10を両側端に間隙をおいて張設し、
B<12> 該各コンクリートパネル10の間隙に<省略>型ジョイント11を嵌着して、
C<13> コンクリートパネル10上面に発泡板やグラスウール板の様な断熱板12を張設し、
D<14> 前端並びに両側端を下方へ曲折すると共に後端を上方へ曲折させた金属薄板13を断熱板12上面に張設して、
E<15><16> 両端曲折を<省略>型ジョイント11内へ嵌入して目地コーキング14する
ことを特徴として成る、ベランダ屋根の構築方法
(四) したがって、右AないしEの五工程の工法を実施することは、本件特許権を侵害するものとなる。
三 間接侵害
1 被控訴人は、平成元年九月ころから、原判決別紙イ号そのA商品目録記載の商品(以下「本件A商品」という。)及び同イ号そのB商品目録記載の商品(以下「本件B商品」という。)を業として製造し、「プロムナールーフ工法」施工業者、屋根工事業者らに対して、同工法用部材として販売している。
2(一) 本件A商品及び本件B商品は、本件特許工法の必須の構成要件である前記<12>工程で専用的に使用される部材である「縁付き凹型ジョイント」及び同様に前記<14>工程で専用的に使用される「金属薄板」の各形状、構成と全く同一のものであり、本件特許工法の実施にのみ使用されるものである。
(二) なお、本件A商品は「通し吊子」となり得るものではない。「通し吊子」としてその用途目的・機能を発揮させる構造のものとするには、「縁付き凹型」形状のものの左右両端の縁となる部分、すなわち外側への左右へ折り曲げた部分、縁の部分においてその幅をいわゆる「ハゼ締め」ができる程度に幅広なものとして形成されていなければならない。ところが、本件A商品は、その縁の部分の幅が右「ハゼ締め」できない程に狭く形成されているので、その形状・構造からしてみて、「通し吊子」としての用途目的のものとして機能させること・使用することが不可能なものである。
(三) また、本件B商品は、金属系屋根葺き用に使用できるものではない。すなわち、本件B商品は、「ベランダ屋根」用に使用する場合、その上面となる部分・すなわち縁台の天空方向に面する部分・上面を表にして右塗装面が来るように加工するもので、左右端下方曲折の内側、すなわち裏面には錆に強いくらいの塗装面でしかない。これに対して、金属系屋根葺き用に使用する場合、右とは逆に表の部分となる面において左右側端部を上方に折り曲げ加工して、その内側を天空の方向に面するようにして使用するから、その部分が耐候性を有する塗装加工面となり、その反対側を錆に強いくらいの塗装加工面のものとしている。したがって、被控訴人の製造販売する「金属薄板」の曲折加工の内容がたとい表面から裏面方向への左右側端の下方に曲折加工したものでしかないとしても、それは、金属系屋根葺き用には使用できないものである。しかも、被控訴人の製造販売する「金属薄板」の左右側端下方曲折加工の部分においては、それらの金属薄板を隣接させて配置するに際して夫々接合する端部の下方曲折部をかみ合わせるために一方の「金属薄板」の一端の下方曲折の先端部分を外側に折れ上がらせ加工しているのに対して、他方の「金属薄板」のそれに対応する下方曲折の先端部分は内側に折れ上がらせ加工し、両者をかみ合わさせているから、「通し吊子」と組み合わせるべき金属系屋根葺き用としてはむしろ使用できない構造となっているものである。
さらに、本件B商品は、左右両端の折り曲げ加工部分を両方とも内側に折り曲げ加工されていなければならない。これに対し、「瓦棒屋根」の屋根板部材として使用するには、金属薄板を左右両端部分においてその左右両端の折り曲げ加工部分を一方は内側へ、他方は外側へ折り曲げ加工されていなければならず、かつ、内側へ折り曲げ加工した部分は、隣接した他の金属薄板の外側へ折り曲げ加工した部分の内側に収納されるような構造に折り曲げられているものであり、外側へ折り曲げ加工した部分は、隣接した他の金属薄板の内側へ折り曲げ加工した部分を内側に収納するような構造に折り曲げられている。したがって、本件B商品を「瓦棒葺」用の屋根葺き用屋根板として機能させること・使用することは不可能である。
3 以上のとおり、被控訴人の本件A商品及び本件B商品の製造、販売等は、本件特許工法の間接侵害(特許法一〇一条二号)となるものである。
四 共同不法行為
1 仮に、特許法一〇一条二号の間接侵害が成立しないとしても、本件A商品及び本件B商品を使用して行われた工事は、別紙「特許権侵害一覧表」記載のとおりである(以下「本件イ号工事」という。)。
2 本件イ号工事においては、次のaないしeの工程をもって、「ベランダ屋根」が構築される。
a 各垂木4の上面にコンクリートパネル10を両側端に間隙をおいて張設し、
b 該各コンクリートパネル10の間隙に 型ジョイント11を嵌着して、
c コンクリートパネル10上面に発泡板やグラスウール板の様な断熱板12を張設し、
d 前端並びに両側端を下方へ曲折すると共に後端を上方へ曲折させた金属薄板13を断熱板12上面に張設して、
e 両端曲折を<省略>型ジョイントー11内へ嵌入して目地コーキング14することを特徴として成る、ベランダ屋根の構築方法。
3 本件イ号工事は、前記二5(三)のAないしEの工程構成より成る本件特許工法と全くその構成要件及び作用効果を同一とするものであるから、本件特許権を侵害する。
4 被控訴人は、本件A商品及び本件B商品を使用することで前記aないしeの工程をもつ「ベランダ屋根の構築方法」を実施することができ、かつ、右のaないしeの工程より成る「ベランダ屋根の構築方法」が本件特許工法に抵触するものであることを承知の上で、又は少なくとも過失によりこれを知らないで、本件イ号工事を実施した屋根業者らに対して、その発注に応じて本件A商品及び本件B商品を製造、販売した。
5 したがって、被控訴人は、本件イ号工事を実施する屋根業者らと本件特許権の侵害についての共同不法行為者となり、右屋根業者らと連帯して控訴人に生じた損害を賠償する義務がある。
五 損害
1 被控訴人による本件A商品及び本件B商品の月間販売額は、八六万九四四〇円である。
2 したがって、平成二年四月一八日から平成四年三月二四日までの約二三か月における販売額合計は、一九九九万七一二〇円である(八六万九四四〇×二三=一九九九万七一二〇)。
3 その利益率は、三〇%であるから、控訴人は、五九九万九一三六円と同額の損害を受けた(一九九九万七一二〇×〇・三=五九九万九一三六)。
六 差止請求の要件
1 被控訴人は、現に本件A商品及び本件B商品の製造、販売等を行っている。
2 被控訴人は、少なくとも過去において本件A商品及び本件B商品を製造、販売等を行っていた。そして、このような形状・構造の部材を加工することは容易であり、しかも、その製造していた商品が汎用品であるとして権利侵害を争っている以上、被控訴人が将来、本件A商品及び本件B商品のごとき商品の製造、販売等を再度行うおそれがある。
七 よって、控訴人は、被控訴人に対し、本件特許権に基づき、本件A商品及び本件B商品の製造、販売及び販売のための展示の差止め、本件A商品及び本件B商品の完成品及び仕掛品並びに製造用専用機械及び製造用金型の廃棄、並びに、特許法一〇一条二号の間接侵害又は共同不法行為による損害金の内金四〇〇万円及びこれに対する不法行為の後である平成四年九月一一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
第三 請求の原因に対する認否
一 請求の原因一の事実は認める。
二1 同二1の事実は認め、同3ないし5の事実は否認する。
2 特許請求の範囲は、発明の構成に欠くことのできない事項のみが記載されているものであり、控訴人主張のように特許請求の範囲の記載の一部のみが構成要件になるとする解釈(要部説)は到底採り得ないものである。
また、控訴人は作用効果から構成要件を導こうとしているが、作用効果が構成要件の解釈に寄与する場合があるとしても、特許請求の範囲に記載された発明の構成が明確な場合にその構成の一部を無視するような解釈が許されるわけがない。
三1 同三1の事実のうち、被控訴人が本件A商品を製造、販売していることは認めるが、その余は否認する。同三2、3の事実は否認する。
2 本件A商品は、いわゆる「通し吊子」として瓦棒葺き屋根(金属板葺きの屋根であるが、金属板を重ね合わせて葺いていくのではなく、金属板と金属板との間にこの形状の金属を挟み込んで葺いた屋根)に古くから使用されてきたものである。
被控訴人は、本件B商品を製造、販売したことはない。被控訴人製品には金属板の左右両側を曲折したもの(以下「本件甲製品」という。)はあるが、これに加えて前後までも曲折した商品はない。なお、本件甲製品は、前記通し吊子とともに、瓦棒葺き屋根に古くから使用されてきているものである。
3 本件A商品及び本件甲製品は、ベランダだけでなく、屋根、屋上、室内や物干し場の床等にも使用されている。
ベランダに使用される場合であっても、ベランダは住宅の一階部分の上に構築するほうが一般的であり、本件A商品及び本件甲製品はそのようなベランダの床に使用されている。
四 同四1ないし5の事実は否認する。
五 同五1ないし3の事実は否認する。
六 同六1の事実のうち、被控訴人が本件A商品を製造、販売していることは認め、その余の事実は否認する。
同六2の事実は否認する。
第四 証拠
原審及び当審記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これらの記載を引用する。
理由
一 特許権者
請求の原因一の事実は、当事者間に争いがない。
二 本件特許工法の技術的範囲
1 請求の原因二1の事実(特許請求の範囲の記載)は、当事者間に争いがなく、右特許請求の範囲を構成要件に分説すると、請求の原因二2記載<1>ないし<21>のとおりとなると認められる。
2 控訴人は、本件特許工法の課題、作用効果等を理由に、本件特許工法の実質的に重要な・必須の構成要件といえるものとしては、次のAないしE要件のみであると主張する。
「A<11>各垂木4の上面にコンクリートパネル10を両側端に間隙をおいて張設し、B<12> 該各コンクリートパネル10の間隙に<省略>型ジョイント11を嵌着して、C<13> コンクリートパネル10上面に発泡板やグラスウール板の様な断熱板12を張設し、D<14> 前端並びに両側端を下方へ曲折すると共に後端を上方へ曲折させた金属薄板13を断熱板12上面に張設して、E<15><16> 両端曲折を<省略>型ジョイント11内へ嵌入して目地コーキング14する、ことを特徴として成る、ベランダ屋根の構築方法」
しかしながら、特許発明の技術的範囲は、願書に添付した明細書の特許請求の範囲の記載に基づいて定めるべきところ(特許法七〇条)、特許請求の範囲には特許を受けようとする発明の構成に欠くことのできない事項のみを記載すべき旨規定されている(昭和六二年法律第二七号による改正前の同法三六条四項)から、特許請求の範囲に記載された事項の一部が本件特許工法において必須の要件でないと主張することは、もともと許されないものである上、本件特許工法は、その特許請求の範囲に記載された<1>ないし<21>の要件(請求の原因二2)を結合した全体の構成に発明の創作性があるというべきであるから、これらはいずれも本件特許工法の構成要件であると解すべきである。
他に本件特許工法の技術的範囲を前記<1>ないし<21>の構成要件と異なるものと解すべき根拠は見いだすことができない。
三 間接侵害
1 控訴人が主張する本件A商品を製造、販売していることは、当事者間に争いがない。そして、仮に被控訴人が本件B商品を製造、販売等しているとしても、本件A商品及び本件B商品が本件特許工法の実施にのみ使用される物であると認めるに足りる証拠はない。かえって、本件特許工法が前記二2に説示のとおり、請求の原因二2に記載のとおりの二一の構成要件を有することにかんがみると、本件A商品及び本件B商品が右二一の構成要件すべてを満たさない工法にも使用することができ、その用途が商業的、経済的にも実用性があることは明らかである。さらに、弁論の全趣旨によって被控訴人主張のとおりの写真であると認められる乙第三ないし第二〇号証によれば、現に本件A商品及び本件甲製品を、木造建物の屋根工事や柱を立設しないベランダの床等の工事の施工に使用することができることがうかがわれるところである。
2 したがって、本件A商品及び本件B商品が特許法一〇一条二号にいう本件特許工法の実施にのみ使用する物であるとの控訴人の主張は、その余の点について判断するまでなく、採用できず、これを根拠とする差止請求及び損害賠償請求は理由がない。
四 共同不法行為
1 控訴人は、本件A商品及び本件B商品が使用されて施工された工事(本件イ号工事)は、別紙「特許権侵害一覧表」記載のとおりであると主張するけれども、本件イ号工事が前記二一の構成要件すべてを満たすことは、控訴人の主張するところではなく、また、これを認めるに足りる的確な証拠もない。
2 したがって、共同不法行為をいう控訴人の主張は、その余の点について判断するまでもなく、採用できず、これを根拠とする損害賠償請求は理由がない。
五 結論
以上によれば、控訴人の請求はいずれも理由がなく、これを棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九五条本文、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 伊藤博 裁判官 濵崎浩一 裁判官 市川正巳)
別紙
特許権侵害一覧表
H、7、6、12
建築業者名 施主名 住所 板金業者名 工事年 数量 備考
正木建築 小湊脇 鹿児島市皇徳寺台3-8-6 不明 H2年ごろ 25m2 写真あり
ハウジング淵脇 田良島 鹿児島市皇徳寺台3-31-1 不明 H3年ごろ 5m2 〃
南国地所(株) 本田智己 鹿児島市皇徳寺台3-30-3 不明 H3年ごろ 10m2 〃
南国地所(株) 松本光広 鹿児島市皇徳寺台3-28-12 不明 H3年ごろ 7m2 〃
不明 東喜久男 鹿児島市皇徳寺台4-11-5 不明 H3年ごろ 20m2 〃
(株)県民住宅 須賀知行 鹿児島市皇徳寺台2-8-10 末永建装 H3ごろ 18m2 〃
九州建設地業(株 脇黒丸 鹿児島市山田町184-1 芝原建装 H7年 35m2 〃
教えて賢えず 片平真 鹿児島市星ケ峰1-4-16 不明 不明 20m2 〃
教えて賢えず 吉留勝次 鹿児島市星ケ峰1-4-11 不明 不明 30m2 〃
田丸住建(株) 久富宅 鹿児島市伊敷ニュウタウン 上ノ園板金 H4年 30m2 〃
田丸住建(株) 田原武志 鹿児島市吉野町1523-8 上ノ園板金 H5年 18m2 〃
田丸住建(株) 落合宅 鹿児島市吉野町1523-7 上ノ園板金 H5年 7m2 〃
田丸住建(株) 床波宅 鹿児島市金錦台1-1-5 上ノ園板金 H4年 10m2 〃
田丸住建(株) 有村久雄 鹿児島市金錦台1-1―部 上ノ園板金 H4年 10m2 〃
建築業者名 施主名 住所 板金業者名 工事年 数量 備考
田丸住建(株) 福元宅 鹿児島市金錦台1-1―部 上ノ園板金 H4年 10m2 〃
日建住宅(株) 高山一郎 鹿児島市皇徳寺1-26-5 末永建装 H3年 10m2 〃
中央ハウス 鹿児島市東谷山 宇都板金 H7年 約10m2 〃
西田工務店 鎌田宅 鹿児島市宇宿町 不明 H7年 約10m2 〃
鹿児島ビルドハウス 深見宅 鹿児島市皇徳寺1-丁目 不明 H7年 約10m2 〃